月下で咲く白い花
ドラゴンフルーツは夜にのみ花を咲かせる。月に向かって真っ白い大きな花を咲かせる。私にはドラゴンフルーツを見ると思い出す事がある。
ある日、台湾の友人の車に揺られて郊外へと行った。彼の友人と一緒に食事をしようという事だった。彼の友人は農業を営んでおり、畑にはドラゴンフルーツやパイナップルといった果物を育てているようであり、居住スペース以外は一面畑というどこか懐かしい風景であった。
畑の間の細い道を歩いていくと食事の出来る広いスペースに出て、そこにはよく日焼けした若い女性がいた。どうやら彼の友人の奥さんのようだが年齢差は結構あるように見える。
女性は若く20代前半に見え若々しい感じであり、台湾人農家の男は40歳弱であろうか、お世辞にもカッコいいとは言えないハーフパンツに白のタンクトップといった田舎の冴えない男性であった。
台湾の友人に彼らの関係を聞くとやはり結婚しているとの事だった。彼女はベトナム人で台湾には結婚相手紹介ビジネスがあり、日本円で100万円~200万円位払う事でベトナムやら発展途上国の若い女性と結婚出来るらしい。
更に詳しく聞いていくと相手方と男性が候補の女性を選び、金額が折り合い話し合いが成立すると中国語や料理の勉強などをしてから台湾に来るらしい。台湾に来るまでにはテレビ電話などを通じて話したりはするそうだが現実的にそういった夫婦が目の前にいると少し衝撃であった。
ただ考えてみれば日本もお見合いや許嫁など親から強制されるような結婚が過去には多かったわけで一概に否定する事も出来ないとも思う。
食事が進みお酒が好きな台湾人友人二人は飲み続け、お酒が苦手な私は彼女と二人で話す機会が出来た。彼女の中国語は私よりも流暢であるがベトナム語の癖なのか口ごもるの感じのアクセントが人懐っこさを感じさせた。
彼女と話をした中で一番印象的だったのが「この農家からほとんど出た事が無く、近くの商店街に行くにも旦那と一緒でなくてはならない」というセリフで旅行などは行った事がないらしい。
何でそんなに厳しいのかと彼女に聞いても「わからない」との返事だったが、私が勝手に想像するには彼女の旦那は彼女が他の男性と出会ったり、発展した街に魅力を感じて逃げ出してしまう可能性があるからではないかと思った。
しかし彼女の口からこういった考えが出てこないという事は逃げるとかそういった事は考えていないのだなと思い、特には何も言わなかった。
日も落ちて暗くなって時に彼女は「良い物を見せてあげる」と言うので彼女について行った。
そこにはさっきまでは見られなかったドラゴンフルーツの白い大きな花が咲いていた。
夜にしか咲かない不思議な花。ひっそりと咲いているくせにその姿は力強く神々しささえ感じさせられる。
そんな花に彼女は自分を照らし合わせたのだろうか、「この花が一番好きなの」と私に言った。
少しすると彼女の旦那が迎えに来て、彼女が旦那に駆け寄り二人で笑顔で話し合っていた。その姿を見て、幸せの形は人それぞれだなと月を見上げながら思ったのだった。