台湾で30代半ばのおっさんが時給550円で人生で初めて飲食店で働いた話
台湾で中国語を勉強して約1年が経った頃、自分の中国語が通じるのかとか、生きた中国語を聞きたいという理由で30半ばで初めて飲食店でアルバイトをした。
アルバイトをしていたお店は日本人経営者のラーメン屋で、オーナーはこてこての関西人のおっちゃんで中国語は全く話せないらしい。オーナーは昔は悪かったであろうオーラを纏っていたが、気さくな性格で事あるごとに「感謝やで、ありがとな」と呟く憎めないおっちゃんだったのを覚えている。
ある時、飲みの席でおっちゃんに「中国語話せないでどうやって台湾でお店作ったんですか?」と聞いた事があるが「関西弁は世界共通語や~!」とのパンチのある答えが返ってきたのは今でも忘れない。行動力というのは言葉をも凌駕するんだなと感心させられたのである。
そんなアルバイトの時給は150元(当時レートでは550円程度)と台湾の洗礼を受ける。まあお金の為だったらやってれないけど、生きた台湾人の中国語を聞くというのが理由だったので気にはならなかった。
むしろ台湾で働いていない学生期間の1年間は、この年で学生で大丈夫なのかという不安感が常に付きまとい、働いているという事実が若干ではあるが私自身を安心させた。
アルバイトが始まると台湾人の若い子に仕事を教わる事となった。30半ばのおっさんに教えるのも嫌だろうけど、留学して学生気分に戻っていた私は自分が結構な年だという事を忘れていたのか、わりとすんなりと溶け込めたと思う。
2日目からはオーダーを取る事となった。オーダー自体は問題ないが、確認で復唱する際に普段使わない中国語のメニューなのでスムーズに出てこない…
お客さんに中国語の発音を直してもらう店員。。。
でもこうゆう経験が人を成長させるんだよ。
これはまずいなとメニューを家に持ち帰り味噌拉麵,醬油拉麵,什錦麵とかぶつぶつと練習していた記憶がある。そんなこんなでレジや閉店作業などもすぐに学んでいった。
まあ日本人もそうだけど、基本自国で外国人店員には皆やさしいよね。アルバイト期間で嫌な思いはあまりなかったが、見た目のせいかアルバイト2日目位でお客さんから店長と間違えられたのは苦笑いしか出なかったが(笑)
楽しく働いていたラーメン屋であったが経営に関しては芳しくなかった。立地はそこそこ良く家賃は高い。当時の店長は台湾人であったが、副店長は日本人でアルバイトも日本人が数人いて日本文化を学べというスタイルだった。
そんな日本を全面に売り出すお店は現地化が出来なかった事が上手くいかない理由だったと思う。中国語を話せず食事は日本人経営のお店ばかりで台湾の一般人の生活スタイルや金銭感覚が見えないオーナーは台湾文化を理解できずに日本のやり方を変えられなかった。信頼出来る台湾人パートナーがいたら違った結果だったのかもしれないがそれはわからない。
そんなお店を見ていて私はお店の為と思って気になる所は素直に伝えた。
1.大盛り、替え玉が無い。
これはかなりの悪手だと思った。サイドメニューを頼ませて売上げを上げたかったのかはわからないが台湾人は日本人より食べる量が多い。台湾のお店は日本のラーメン1.5~2玉分位がベースのお店が多いし、美味しくてもお腹いっぱいにならないと満足しない方が台湾人。ラーメン1杯約250元、サイドメニューを頼むと約400元近くになる。台湾人が経営する安いラーメン屋だと150元程度でお腹いっぱいになる。1回は来てくれるけど常連にはなってくれないだろう。
2.SNS意識
私は中国語が話したかったのでホールだけをやっていたのだけど、ラーメンと丼物で提供時間の10分~15分の差があった。台湾人はSNS大好きなので写真を撮る人がほとんどだが、食事が全部揃ってから撮る人もいる。なのでラーメンを提供してから10分以上丼ものを待っている人達をたびたび目にした。伸びたラーメン美味しくないよね。
3.回転率悪すぎ
日本人がラーメン屋に行ったら30分位で食べ終わって出て来ると思う。でも台湾人からしたらそこそこのお金払ってるわけで、日本人がイタ飯にいくような感覚なわけ。だから普通に1時間とか1時間半とかおしゃべりしながら食べる。かき入れ時に一組1時間以上いられたらまあ厳しいですね。混雑時は1時間位の制限時間にした方が良いよね。
その他もろもろ気付いた所は伝えて、結果オーナーが改善してくれた所もあるけど、飲食経験無しの入って数カ月のアルバイトの意見を全部は聞かないよね。仕方が無い。
国や場所が変われば美味しいも不味いも変わるし綺麗や汚いの感覚も変わる、何かに拘るのは悪い事とは思わないけど、変化出来ないと生き残れないのが今の世界。
お寿司にしてもサーモンは寿司じゃねえとかいう方もいるけど、台湾人が食べる寿司なんてサーモンばっかりだからね。まあほとんどの外国人はそうじゃないかな。
丸亀製麺も台湾人好みの薄味の豚骨うどんを出して大成功してるからね。
軸はぶれちゃいけないけど、変化する勇気は必要だなって思わされた。
結局、別の就職先が見つかり数カ月だけのアルバイト経験だったけど、その後もちょくちょく顔を出させてもらった。経営難から居酒屋へと鞍替えした頃にはもう無理かなと感じて特に触れなかったがある日突然お店が譲渡されて空っぽになってた時には寂しかったな。
まあこうやって斜め上からああだこうだ言うのは簡単だけど、実際に海外に店舗オープンさせたおっちゃんの行動力は尊敬しかない。台湾での経験は貴重な財産だし、日本の店舗で以前より繁盛させてると願ってる。